広島県内農業ニュース

米寿で県共進会総合首席を獲得

2013.11.12
県内農業

 「ゆりよ、ゆりよ、帰っておいで」神石郡神石高原町有木の放牧地に大きな声がこだまする。声の主は、10月29日の第89回県畜産共進会肉用種種牛の部で、総合首席に選ばれた「なるこゆりしげ」を飼育する井上栄之進さん(88)だ。井上さんは牛を本格的に飼育し始めて6年目。神石高原町和牛改良組合から6年ぶりに念願の首席の牛を生み出した。キャリアは短いが、広島牛に懸ける情熱は人一倍ある。

 井上さんは30歳から乳用牛と肉用牛の飼育を行っていたが、同町特産のコンニャクや米作りに本腰を入れるため、20年間続けた飼育をやめた。所有する山林を開墾しコンニャクを植え付け生産。県内各地で行われる祭りなどに出向き、対面販売を行うなど軌道に乗っていた。

 転機は82歳のとき。草刈り作業の休憩中に突如寝てしまい、「夢のなかで、目を開くと周りを牛に囲まれていてびっくりした。神様から牛を飼えとのお告げと思った」と井上さん。牛を飼うことをすぐに決断し、郡内の生産者に聞いて回るなど奔走した。その年の暮れには3頭で飼育を開始。牛舎も新しく作り、井上さんの座右の銘である「我が人生は夢と希望を実現」と書かれた長さ2㍍の木版を牛舎入口に掲げた。コンニャクを植えていた畑には、牧草や笹を植えて300㌃の放牧地を作った。井上さんは「牧草などの粗飼料や木の芽など好きなものを牛任せで食べさせると自然にバランスがとれてストレスがない」と放牧飼育にこだわる。飼育し始めて2年目には、郡内で行われた共進会で優秀賞2席を獲得。3年目には首席に選ばれ、手応えを感じた。

 現在は、繁殖母牛4頭と子牛2頭を飼育。毎朝8時前には牛舎に行き、全頭に「よく寝たか」「今日も元気か」と話し掛けながらふんを観察する。午後3時過ぎには愛車の軽トラに乗り、クラクションを鳴らしながら牛舎に向かうと放牧されている牛が帰ってくる。手塩に掛けて育てる中で愛着が深まり、「話しかけると首を振って答えてくれるのでわが子のようにかわいい」と笑顔で話す井上さん。「繁殖母牛10頭まで増やして、どこにも負けない広島牛で県共進会連覇を実現したい」と早くも次の夢に向かい、牛と共に歩みを進める。

(ふくやま)